
夜の茶席や夜話の会、お茶屋で芸舞妓が舞う際に用いられる和ろうそく。その幻想的な美しさは、見る人を惹きつけます。和ろうそくが日常的に使われるようになったのは室町時代頃で、当初は貴族や権力者だけが使えるものだったそう。ところが明治以降、石油系の安価な西洋ろうそくの普及もあり、和ろうそくは衰退することになります。とはいえ、大本山など各宗派の寺院では、今も仏事には和ろうそくが使われています。その原料は櫨の実なのですが、今やその入手が本当に困難なため、和ろうそくは希少品。和紙に井艸を巻き付けた芯もふくめ、原料はすべて植物性です。ゆらゆらと炎が揺れるのは、芯に井艸による段差があって不完全燃焼を起こしながら燃えるから。炎が揺れることで陰影をつくり、幻想的な空間を生み出すのです。今回、ろうそく販売にご協力いただく中村ローソクは、寛文7年(1667年)の創業。蝋や芯など材質にこだわり、現在も蝋職人3人、絵付け職人2人が、昔ながらの手作業で和ろうそくをつくります。
和ろうそくは再生や再利用できるエコな商品です。仏事などで灯した後、残ったろうそくは、中村ローソクが買い取り、新しい和ろうそくに再生しています。さらに、溶けた蝋は再利用してキャンプ用の固形燃料に。植物性の材料でつるものだから土にかえしても、自然を汚すことがありません。また和ろうそくの煤はすぐに落ちるのも特徴です。石油系のろうそくの煤はこびりついて、洗剤でも使わなければ取れません。ところが、和ろうそくの煤はサッと払えば落ちる。寺院では、かつては必ず和ろうそくを使っていたので、建物や仏具は美しい姿をとどめました。ところが、ここ百年ほどの間に西洋ろうそくを使うようになり、修復を必要とするほど傷んでしまったのです。
和ろうそくは西洋ろうそくより高価ではありますが、消えづらく美しい。寺院の和ろうそくの炎がゆらゆらと揺れると、その陰が襖に写って風情を生み、仏像の表情を変えます。人はその揺らぎのなかに、自分の喜怒哀楽を見出すのでしょう。今、キャンプや焚火が人気ですが、同じ理由なのかもしれません。私たちの暮らしのなかでも和ろうそくの使い方は多彩です。寝室やバスルームなどで灯して瞑想するのもいいし、食事の際の灯りとして使うのもいい。LEDや蛍光灯ではつくることのできない陰影が豊かな暮らしをもたらしてくれます。扱いが難しいと思われがちですが、それも一度覚えれば簡単です。つける時は、紙に火をつけ芯に移す。芯切りで芯をはさんで火を消す。もしも蝋がこぼれても、熱いお湯をつけて拭けばすぐにとれます。今回販売するのは、赤白の和ろうそくと燭台、芯切りのセットと、和ろうそく単品です。谷崎潤一郎がえがいた『陰影礼讃』の世界観を、ぜひ自宅でも楽しんでください。
他では手に入れられない、
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